3か月を過ぎてしまった場合の相続放棄

文責:司法書士 宮村 和哉

最終更新日:2024年02月19日

1 3か月を過ぎると相続放棄は困難になる

 先日、3か月越えの相続放棄が一度、熊本家庭裁判所で受理されず、その後上告して、無事福岡高裁にて受理されました。

 もし、相続放棄ができなかったら、相続人は2,000万円以上の債務を相続することになっていました。

 相続放棄をするかどうか判断する3か月の熟慮期間を過ぎてしまった場合の相続放棄は、非常に厳しいです。

 亡くなった方(被相続人)の死亡を知ってから3か月(熟慮期間)を過ぎてしまったら、相続放棄は一切受け付けてもらえないのか?ということですが、そうではありません。

 3か月経過した後であっても、「3か月を過ぎてしまった事情」を家庭裁判所に説明すれば、相続放棄を受理してもらえる可能性があります。

 参考にしてもらえればと思います。

2 相続の開始から3か月以内に相続方法を選択

 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に相続放棄をしなければなりません。

 この期間を「熟慮期間」と言い、相続人は単純承認、相続放棄、限定承認のいずれかを選択する必要があります。

 相続するか、相続しないかを3か月以内に決めてねということです。

 熟慮期間を過ぎると、相続放棄は受理されず、債務も含めたすべての財産を相続する「単純承認」をしたものとみなされます(民法921条2号)。

「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、基本的には、被相続人が亡くなったことを知った時のことです。

 そのため、被相続人が亡くなったことを知らなかったのであれば、被相続人が亡くなってから3カ月が経過していても相続放棄を家庭裁判所に受け付けてもらうことは可能です。

3 熟慮期間は伸長(延長)することができる

3か月以内に相続するかどうかというのは、相続財産がどんなものがあるかわからなければ判断ができないこともあるでしょう。

 相続財産を調査し、財産を相続するか、相続放棄するかの判断ができないケースもあるでしょう。

 そのような場合、家庭裁判所に申立てることで、熟慮期間を伸ばしてもらえる可能性があります。

 延長期間について規定はなく、一般的には1~3か月ほどですが、延長を要する事情に応じて延長期間は変わります。

 なお、期間伸長の申立ては、当初の熟慮期間のうちに行う必要がありますので注意してください。

また、相続人の一人が伸長しても、ほかの相続人の熟慮期間には影響はありません。

 延長したいならそれぞれが手続きを取る必要があります。

 そもそも相続放棄は相続人各自の手続きですから。

熟慮期間を超えてしまっても受け付けてもらえる場合がある

 被相続人が亡くなったことを知った時から3か月が経過してしまったら、原則として相続放棄は認められません。

 しかし、以下のような場合はどうでしょう。

「離婚して、疎遠になっていた、父親が亡くなったことを知らず、死亡から数年経って、父親の借金の督促が相続人に届いた。」

 このように、亡くなった方(被相続人)と交流が途絶えてしまっている場合など、亡くなったことすら知らないケースなどの場合に、督促状が届くなどして初めて被相続人の借金を知るケースは少なくありません。

 この場合、亡くなったことを知った日から3か月を数えればいいので、督促状が届いてから3か月以内に相続放棄ができるというわけです。

 では、被相続人が亡くなっていたことは知っていたけど、相続放棄をしていなくて、3か月後に相続放棄をする必要が生じたという場合はどうでしょう。

 例えば相続財産がないと思っていて、何らの手続きもしていなかったけど、後で大きな借金が見つかった場合などです。

 この場合、熟慮期間が経過している以上、原則として相続放棄はできません。

 ただし、判例(最判昭和59年4月27日)では、相続放棄をしなかったのが「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認めるときは…熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべき」と判示しています。

 つまり、例外的に相続放棄ができる場合があるのです。

 その要件は、上記の判例の内容をまとめると、次のようになります。

 ① 被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたこと
 ② 相続財産の有無の調査をすることが著しく困難な事情があって、①のように信ずるについて相当な理由があること

 この要件を満たす場合でも、借金などの存在を認識した時から3か月以内には相続放棄をする必要があります。

ちなみに、①については、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた場合に限られるのか(限定説)、一部の相続財産の存在は知っていたが、通常その存在を知っていれば当然相続を放棄したであろう債務が存在しないと信じた場合も含まれるか(非限定説)は、裁判所によって判断が分かれています。

そのため、一部の相続財産の存在を知っていたからといって、必ずしも相続放棄を諦める必要はありません。

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