相続と生命保険の活用

文責:司法書士 宮村 和哉

最終更新日:2024年01月05日

1 生命保険と相続対策

 生命保険を活用して、争続トラブルの防止や相続税の節税などが期待されます。

 この記事では活用方法の具体例も紹介します。

 円満に相続を済ませるためにも、生命保険を活用して事前に相続対策を行いましょう。

2 相続税の税率や計算方法

 まず、相続税の仕組みを簡単に説明します。

 相続税の税率は、相続財産の金額ごとに次のように定められています。

 

 法定相続分に応ずる取得金額:税率(控除額)

 1,000万円以下:10%(-)

 3,000万円以下:15%(50万円)

 5,000万円以下:20%(200万円)

 1億円以下:30%(700万円)

 2億円以下:40%(1,700万円)

 3億円以下:45%(2,700万円)

 6億円以下:50%(4,200万円)

 6億円超:55%(7,200万円)

 

 ただし、相続税は、すべての家庭に係るのではなく、一定額以上の相続財産が残った場合に、その残った部分に相続税がかかります。

 この一定の額を、「基礎控除額」といいます。

 

 基礎控除額は、次のように計算されます。

 3,000万円+600万円×法定相続人の数

 

 法定相続人とは、民法で定められた相続人のことです。

 まずは相続税の基礎控除額を計算し、相続財産が基礎控除額の範囲内であれば、相続税を支払う必要はありません。

 相続税の申告も不要です。

3 相続対策に生命保険が有効な理由

⑴ 保険金の非課税枠

 被相続人の死亡時に遺族が受け取る生命保険の保険金は、「みなし相続財産」として、相続税の課税対象になる場合がありますが、死亡保険金にも、次の計算式で求められる「非課税枠」が適用されます。

 

 500万円×法定相続人の数

 

 例えば、法定相続人が配偶者と子供二人の三人の場合だと非課税枠は1,500万円となります。

 相続税がかかる場合に現金1,500万円で相続してしまうと1,500万円に対して相続税が課税されてしまうのに対し、生命保険の死亡保険金として受け取れば課税されなくて済むということです。

 

⑵ 保険金は相続財産ではなく受取人固有の財産

 相続財産は、遺言があれば、遺言の内容にしたがって分けられます。

 遺言がないときは、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)によって、誰が何を相続するか決めなければなりません。

 しかし、生命保険の保険金は、相続財産ではなく受取人固有の財産となるので、ほかの相続人との話し合いなしに保険金を受け取れます。

 ほかの相続人から遺留分の請求をされる心配もありません。

 生命保険を活用することで、被相続人は自分が渡したい人に確実に財産を渡すことができ、受取人もほかの相続人とのトラブルを避けて財産を受け取れるというメリットがあります。

 

⑶ 保険金の支払いがスムーズで、納税資金の確保に役立つ

 被保険者の死後、早く保険金の支払いを受けられるのも生命保険のメリットです。

 一般に人が亡くなると、相続税の納税や葬儀関連費用の捻出が必要になり、出費が増えます。

 その際に、相続財産の多くを不動産が占めている場合など、お金を用意できないことがあります。

 また、被相続人の死後は預金口座が凍結されます。

 遺産分割協議が終わるまで預金を引き出せなくなります。

 遺産分割協議が長引くと、預金があるのに引き出せずに困るといった状態になることがあります。

 生命保険は申請してから短期間でお金を受け取れることができます。

 故人の死亡後すぐにさまざまなお金が必要になります。

 生命保険がお金の確保に役立ちます。

 

⑷ 相続放棄しても保険金は受け取れる

 相続財産にはプラスの財産だけではなく、借金、ローンなどマイナスの財産も含まれます。

 このようなマイナスの財産を相続したくない場合や、そもそも他の相続人と関わりたくない場合など、被相続人の死後に相続放棄を選択したい場合もあるでしょう。

 このような場合でも、受取人固有の財産である生命保険の保険金は受け取れます。

 

⑸ 代償分割に活用できる

 生命保険は、代償分割にも活用できます。

 代償分割とは、不動産など分割の難しいまとまった財産を受け取った人が、ほかの相続人に相続財産からではなく、自分の財産から代償となるお金を支払うことで、相続のバランスをとる方法のことです。

 

 例えば、男2人兄弟で、親の死後に相続が起きたケースを考えてみましょう。

 相続財産は不動産のみで、不動産は長男が相続しました。

 その場合、このままでは、次男の手元には何も残りません。

 そこで、長男は次男に対し、不動産の価額の半分を現預金で支払い、バランスをとりました。

 このような事例が、代償分割の事例です。

 しかし、通常、代償分割のためのお金(数百万〜数千万)を用意するのは大変です。

 被保険者を被相続人にし、契約者を被相続人か長男、保険金の受取人を長男にしておけば、長男は相続発生時に受け取った保険金を、次男への現預金の支払いにあてられます。

4 生命保険を活用して相続対策をしよう

 相続税対策に生命保険を活用することで、相続税の負担を軽減したり、相続人同士のトラブルを防止したりするのに役立つ可能性があります。

 自分の死後、相続財産をめぐって親族間で争う事態は誰もが避けたいと考えるでしょう。

 生命保険を活用し、計画的に相続対策を行うことが大切です。

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