生前贈与と相続について

文責:司法書士 宮村 和哉

最終更新日:2023年06月05日

生前贈与と相続どっちが得なの?

 親から子供への財産の相続について、生前贈与と相続どっちが得なんですか?との相談をお受けすることがよくあります。

 しかし、得かどうかはお客様の「生前贈与を考えた」目的によります。

 節税のためならばどちらが得か?なのか、争わないためにはどちらが得か?なのか。

 両者の違いや、手続きの手間と費用面、メリット・デメリットがありますので、よく比較検討して選択していく必要があります。

相続と贈与の違い

 贈与は当事者の一方(あげる人を贈与者といいます。)が、ある財産を相手方(もらう人を受贈者といいます。)に無償で与える契約のことをいいます。
 これに対して相続は、ある人(亡くなった人を被相続人といいます。)が亡くなったとき、その人が持っている財産を、相続人という相続権のある人がその人の権利義務(財産や借金)の引き継ぐことをいいます。

・贈与は⇨生きているうちに財産を渡すこと
・相続は⇨その人が亡くなってから財産を引き継ぐこと
というのが、贈与と相続の違いです。

手続き面での違い

【生前贈与の手続き】

 贈与の場合は、お金や現物を「あげるよ」「もらうね」といって二人の間で、合意ができ、そのまま渡してしまえば、法律上贈与が成立し、書面などを必ずしも取り交わす必要はありません。
 不動産や車など名義変更の手続きが必要な財産に関しては、名義変更の手続き(生前贈与の登記手続き)のために、二人の間で贈与契約書を作成する必要があります。

 

【相続手続き】

 相続の場合、相続人となる人が複数いれば、全員の話合いで財産の分け方を決める遺産分割協議をおこない、その内容をまとめた遺産分割協議書を作成し、名義変更などの手続きをおこないます。
 遺産分割協議は場合によっては争いに発展し、なかなか解決しない場合もあります。

 手続きの面においてはどちらも名義変更のための書類を作成するというところで共通点がありますが、
・贈与は⇨贈与したい人、贈与を受けたい人の間で合意ができればいいので、確実に財産を渡せる。
・相続は⇨相続人全員での話し合いによるので、相続人全員の間で合意ができない場合には、渡したい財産を渡せない可能性があります。
といった違いがあります。

 なので、確実に渡すために、親が生前中元気なうちに遺言書を作っておくという方法があります。

 遺言書がある場合には、遺産分割協議を行うことなく、遺言の通りに相続させることができるので、親の意思どおりに財産を分けることが可能です。

 生前贈与と遺言書の作成を比較検討し、遺言書の作成になされる方も多いです。

名義変更にかかる税金の違い

 贈与も相続も、「税金がかかる」ことがあります。

 この税金は、財産をもらった人が支払うことになります。

 贈与であれば贈与税、相続であれば相続税として、もらった額に応じた税金を国に納める必要があります。

 贈与税については通常、暦年贈与といってその年の1月1日~12月31日までに受けた贈与の額が基礎控除額110万円を超えた場合に、その超過分について課税されます。
 

 対して相続税は、親が死亡したときの全財産(死亡前3年分の贈与を含む)が基礎控除額(3,000万円+600万円×相続人の人数)を超えた場合に、その超過分について課税されます。
 

 一般的に、贈与税より相続税のほうが基礎控除額も大きく、税率も低いため、税金の観点から両者を比較した場合には相続で財産を渡した方がお得になることが多いです。

生前贈与の特例

 生前贈与を活性化させるための制度として、相続時精算課税制度というものがあります。
 これは、60歳以上の父母(または祖父母)から20歳以上の子(または孫)に対する贈与について、親1人あたり2,500万円まで贈与税がかからずに贈与できるという制度です(基礎控除額超過分には一律20%の課税)。
 この制度を利用することで、高額な不動産についても贈与しやすいというメリットがあります。

名義変更手数料(登録免許税)の違い

 贈与または相続の対象となる財産が不動産の場合、登録免許税といって、名義変更の登記に必要な手数料を法務局に支払う必要があります。

 登録免許税は固定資産評価額(固定資産税課税のために都税事務所や市町村役場が決める価格)を基準に計算され、
・贈与の場合⇨固定資産評価額の2%(評価額1,000万円あたり20万円)
・相続の場合⇨固定資産評価額の0.4%(評価額1,000万円あたり4万円)
といった違いがあります。

 都心で戸建て住宅を所有している場合、土地の評価が2,000万~3,000万円くらいになることもあるでしょうから、贈与と相続で、登録免許税額で数十万円単位の差が出てきます。
 登録免許税の面から見ても、相続で財産を渡すほうがお得です。

不動産取得税の違い

 贈与の対象となる財産が不動産の場合、さらに不動産取得税という都道府県税を支払う必要があります。
 不動産取得税は、
・土地=固定資産評価額×1/2の3%
・住宅用家屋=固定資産評価額の3%
(ともに平成30年3月31日までの税率)
という税率で計算します(ただし、要件を満たせば一定額の減税措置を受けられます)。
 不動産取得税もかなりの高額な出費となるので注意が必要です。

 一方、相続で不動産を取得した場合には不動産取得税は課税されません(※ 法定相続人が取得した場合に限る)。
 不動産取得税が発生しない点も相続が有利な点です。

生前贈与をしておいたほうがいい場合とは?

 以上のとおり、税金や費用面だけでいうと相続で財産を渡す方が断然お得ということがお分かりいただけたかと思います。
 それでも生前贈与を選択するメリットとしては、「その場所に孫が家を建てたいから生前に相続させたい」や「将来話し合いで相続させるには、揉める可能性があるので生前に確実に渡しておきたい」などという場合が考えられます。

 費用をかけてでも生前贈与をするのか、費用を抑えることを重視して相続で財産を渡すのか、ご家庭の事情に合わせて良くご検討ください。

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